#2: アトピー性皮膚炎の機序と治療
今日はアトピー性皮膚炎がどうして発症するのか、またその治療としてはどのようなものがあるのかを解説していきます。
参考文献:
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2023911
アトピー性皮膚炎の機序
遺伝子と環境要因、皮膚バリアの機能障害、微生物の不均衡、免疫の調節異常、および環境誘発性の皮膚炎症が、アトピー性皮膚炎の発症において役割を果たしている。
皮膚バリアの機能障害を誘発する遺伝的要因
皮膚バリアの機能障害を促進する遺伝子の中で、フィラグリン遺伝子(FLG)の変異が最も顕著であり、白人患者の30〜50%に影響を与えている。
フィラグリンは、上層の表皮ケラチノサイトによって産生され、天然の保湿因子および脂質マトリックスの生成を促進し、角質層のケラチノサイトを一緒に保つモルタルのような役割を果たす。
FLGの機能喪失変異は、皮膚バリア形成の障害と皮膚透過水分損失の増加を引き起こし、乾燥した肌を生じる。皮脂の不足はまた、細菌の不均衡を増加させ、アレルゲンが皮膚に浸透しアレルギー感作を誘発する。
環境要因と微生物の不均衡
アトピー性皮膚炎に関与しうる要因には極端な温度、紫外線曝露、大気汚染曝露、水の硬度の増加、および家庭用製品(洗剤など)の使用頻度の増加が含まれる。
最後の要因は「衛生仮説」とよばれ、これは西洋諸国で感染症の減少が清潔さの増加と関連しており、これがアトピー性皮膚炎を含むアレルギーや自己免疫疾患の発症増加と関連しているとされている。
アトピー性皮膚炎患者の皮膚微生物叢の研究では、主に病原性S. aureus(黄色ブドウ球菌)によって占拠されていることが示されている。この微生物叢の変化と表皮抗菌ペプチドの減少は、湿疹部位での膿疱や膿瘡の発症に臨床的な影響を与える可能性がある。
免疫学的メカニズム
炎症は、表皮バリアの破壊と表皮炎症性樹状細胞および自然リンパ球(ILC)が活性化することによって開始されると考えられており、これらは発症局所に侵入するTh2細胞と相互作用する。
湿疹病変の直接のメカニズムは、Th2細胞の調節異常に関連した炎症である。
活性化されたT細胞は、主にインターロイキン(IL)-4、IL-13、およびIL-31を含むサイトカインを皮膚に放出し、これらは下流のヤヌスキナーゼ(JAK)経路を活性化する。
これらのサイトカインは炎症、かゆみ、およびB細胞およびプラズマ細胞の活性化により特異的なIgEの産生を促進する。
かゆみのメカニズム<itch-scratch cycle>
アトピー性皮膚炎におけるかゆみは、ケラチノサイト、マスト細胞、および免疫細胞(T細胞および好塩基球)が放出するかゆみの情報伝達に基づいている。
かゆみの原因物質にはTh2サイトカイン(特にIL-4、IL-13、IL-31)、TSLP(上皮由来の炎症性サイトカイン)、ヒスタミン、プロテアーゼ、および神経ペプチドが含まれる。
これらのかゆみの原因物質は、皮膚の表皮および真皮にある感覚C-神経線維およびAδ-神経線維に存在する受容体に結合し、かゆみと痛みを感知する。
ほとんどのかゆみの原因物質は非ヒスタミン性の神経線維に結合する。皮膚C-神経線維の小さなサブグループ(<5%)はヒスタミンに敏感だが、抗ヒスタミン薬でヒスタミン1受容体をブロックしてもかゆみの制御にはつながっておらず、ガイドラインはかゆみの制御に抗ヒスタミン薬を推奨していない。
かゆみの原因物質は炎症だけでなく、掻痒(ひっかき)によっても放出される。これにより、かゆみと掻痒のサイクル(itch-scratch cycle)による神経線維の過敏化が生じる可能性がある。
IL-4α受容体サブユニットはかゆみを感知する神経線維上に発現しており、IL-4との持続的な刺激によりこれらをかゆみに対して過敏化させる可能性がある。これがかゆみと掻痒のサイクルを一部説明する要因であり、下流のJAK1およびJAK2、およびIL-4α受容体経路の阻害からの迅速な効果の一因である可能性がある。
人種間の発症要因の違い
Th2経路の活性化以外にも、他のヘルパーT細胞経路(Th1、Th17、およびTh22など)の活性化と関連していることがある。これは部分的には人種または民族集団に関連している。
例えば、アジアの患者ではTh2およびTh17経路の活性化が報告されているが、ヨーロッパ系の患者では主にTh2経路の活性化のみ見られる。アトピー性皮膚炎の黒人患者ではTh1およびTh17経路の活性化が見られない。
これらの違いは、人種または民族集団に応じて湿疹病変の様々な表現型があることを説明するかもしれない。ただし、Th2経路のメディエータやサイトカインを標的とすることが、治療のための最も有望な個別化されたアプローチであると考えられている。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療は、疾患の臨床段階(軽度、中等度、または重度)、体表面積の広がり、患者の年齢、合併症や患者が服用している薬剤、かゆみの重症度、生活の質の損傷度合い、および患者の目標に基づいて選択される。
一般的な対策(湿疹のない期間も含む)
保湿剤の使用や感染およびトリガーとなる要因の回避などが勧められている。
湿疹が発生した場合、局所免疫抑制療法(ステロイドの外用)の使用が最初のアプローチとして勧められる。
最近では、ホスホジエステラーゼ(PDE)-4阻害剤であるクリサボロールがアメリカでアトピー性皮膚炎の治療に承認されていますが、すべての国で使用可能とは限らない(日本ではまだ臨床研究段階)。
中等度の湿疹の場合、紫外線光療法が適用されることがあるが、皮膚がんのリスクがあるため、長期間の使用は避けられる。
重度のアトピー性皮膚炎の場合、糖質コルチコイド、シクロスポリン、またはメトトレキサートなどのいくつかの従来の全身免疫抑制剤が使用されてきた。ただし、これらの薬剤はアトピー性皮膚炎における特定の免疫調節異常を対象としておらず、肝臓や腎臓の機能障害を含む重篤な副作用を引き起こす可能性がある。
新しい治療法:分子標的薬
Th2を標的とする治療法の開発では進展があり、モノクローナル抗体、PDE-4阻害剤、およびJAK阻害剤(局所および全身)などが有望な治療薬とされている。これらのほとんどは第2-3相の試験で試されている。
比較研究では、抗IL-4受容体抗体デュピルマブとJAK阻害剤アブロシチニブは、プラセボと比較してアトピー性皮膚炎の兆候と症状の減少に関連していた。アブロシチニブは2週間後のかゆみの減少でデュピルマブに優れていたが、それ以外では2つの薬剤は類似の結果であった。
皮膚感染症や喘息の悪化などの副作用は、これらの新しい治療法の将来の使用に対して慎重な評価を必要とする(特に子供やアトピー性皮膚炎の典型的な合併症を持つ患者)。
たとえば、デュピルマブ療法では、特に季節性アレルギー性結膜炎と合併している場合、多くの患者が長期にわたり結膜炎を副作用として生じる。
JAK阻害剤は血栓塞栓症やがんのリスクがあり、呼吸器感染、帯状疱疹感染、頭痛、悪心、下痢、および白血球数の減少と関連している可能性がある。
まとめ
アトピー性皮膚炎は、特に子供にとって負担の大きい皮膚疾患です。
地理的および人種または民族グループの変動、複雑な病因は、対象となる治療法の開発を妨げています。
アトピー性皮膚炎に関連するかゆみは、生活の質に影響を与え、治療の焦点であり、治療効果の決定要因であり、またアトピー性皮膚炎の新しい薬物の開発において主要な懸念事項です。
以上、アトピー性皮膚炎の機序と治療に関して説明してきました。
質問やコメント等があれば、コメント欄およびX(@miro_bipolar)でお気軽にどうぞ!
#1: アトピー性皮膚炎とは何ぞや?
今日は「アトピー性皮膚炎ってそもそもどんな病気?」ということを、総説論文を読むことで確認していきましょう!
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2023911
アトピー性皮膚炎の特徴
アトピー性皮膚炎は慢性・難治性の炎症性皮膚疾患で、再発する局所的なかゆみを伴った湿疹を伴う。
有病率・発症率は過去数十年で増加傾向にあり、小児で15-20%、成人で10%の人が発症しているとされる。
症状は年齢や疾患のステージ、人種や地理的な位置によって異なる。例えば、小児の場合は頭・顔・頬・腕・手足・胴体といった身体全体に広がる傾向があるが、年齢が上がるにつれて膝の裏や手、下腿や足・首・手の周囲などに限定される傾向にある。
強い「かゆみ」がこの疾患の大きな特徴であり、患者の生活の質(QOL)を低下させる。
アトピー性皮膚炎の診断
かゆみ、②特徴的な湿疹と分布、③慢性・反復性の経過を基に診断される。患者の多くは「アトピー素因」をもつ。
アトピー素因とは・・・家族歴・既往歴(気管支喘息・アレルギー性鼻炎・結膜炎・アトピー性皮膚炎)またはIgE抗体を産生しやすい素因のこと。
重症度の評価にはEASIやSCORADというスコアで評価され、軽症(軽度の皮疹)〜最重症(強い炎症を伴う皮疹が全身の30%以上)で重症度が判定される。
「アトピーマーチ」
合併症としてアレルギー性疾患(食物アレルギー・アレルギー性鼻炎・鼻結膜炎・喘息)の逐次的な発症がしばしばみられ、「アトピーマーチ」と呼ばれる。
次回はアトピー性皮膚炎の病理と治療について解説していきます!
コメント・ご質問等あれば、コメ欄やX(@miro_bipolar)でお気軽にどうぞ。
Prologue: そもそも皮膚って何ぞや?
X (@miro_bipolar)で告知をしていましたが、今日から私の研究対象である「アトピー性皮膚炎」に関する情報を発信していきたいと思います。
コメント・質問等大歓迎です。コメ欄・X上で気軽にメンションしてください!
では早速、プロローグということで、病気の話をする前に「正常な皮膚の構造と機能」について見ていきましょう!
教科書は「あたらしい皮膚科学(第2版、清水宏 著)を参考にしています。
本日のメニュー:
皮膚とは
成人で体重の16%を占める、人体で最大の臓器。
外界と生体の境界であるため、
- 水分の喪失や透過を防ぐ
- 体温を調整する
- 微生物・傷害物/化学薬品など多様な刺激から生体を守る
- 感覚器(触覚・痛覚・かゆみなど)としての役割を果たす
など、生きていく上で必要不可欠なさまざまな機能をもっている。
皮膚の構造
皮膚断面で観察すると、おおまかに表皮・真皮・皮下組織の3層構造をとっている。
表皮
生体表面を覆う層で、大半が角化細胞(ケラチノサイト)で構成されている。
5%程度は色素細胞(メラノサイト)や免疫細胞(Langerhans細胞)も含む。
厚さは約0.2 mm。
表皮はさらに細かく分類すると、下から基底層(1層)・有棘層(5~10層)・顆粒層(2~3層)・角層に分けられる。
生体保護の観点から見ると、角層が最も重要な役割を果たす。
真皮
表皮の下方に存在する構造であり、線維芽細胞、免疫細胞、血管、リンパ管および神経が分布する。
厚さは表皮の約15~40倍=3 mm~8 mm程度。
真皮はさらに細かく分類すると、乳頭層・乳頭下層・網状層に分けられる。
主成分は線維芽細胞が産生する間質成分(細胞外マトリックス=コラーゲンが主)。
免疫細胞としてはマクロファージ・マスト細胞・形質細胞(B細胞)・樹状細胞などが局在しており、炎症状態における免疫反応の場として重要。
皮下組織
真皮の下方にある層のことで、真皮と筋膜との間に挟まれた部位。
厚さは身体の部位や年齢などによって異なる。厚い部位としては乳房やおしり、足の裏など。薄い部位は鼻背やくちびるなど。
主成分は脂肪細胞。
主に中性脂肪を蓄えることで、物理的外力に対するクッションになったり、体温が下がるのを防いだりする。
付属器
皮膚には上記3層構造をとるが、ところどころに毛器官(毛包および毛)・立毛筋・脂腺・汗腺・爪といった付属器が見られる。
皮膚の免疫機構
免疫とは、外界から生体内に侵入してくる病原性微生物から生体を防御する、生体にとって最も重要な働きのひとつ。
免疫の三大特徴として「自己非自己の認識」「非自己の排除」「免疫学的記憶」が挙げられる。
主要な細胞としてリンパ球(T細胞・B細胞・自然リンパ球)とミエロイド細胞(マクロファージ・マスト細胞・好酸球・好中球・好塩基球)が挙げられる。
皮膚にのみ見られる細胞としては表皮に局在するLangerhans細胞や真皮樹状細胞が挙げられる。
これら免疫細胞は、B細胞が産生する抗体によって非自己を認識・排除するほか、それぞれの細胞が特異的に産生するサイトカインによって細胞間の情報伝達をおこなっている。
アレルギー反応
免疫系が通常は無害な物質に対しても反応を起こす異常な反応の一種(アトピー性皮膚炎もこのうちの一つ)。
Coombs & GellによってI型〜IV型に分類されている。
I型:マスト細胞が主体で抗原(アレルゲン)投与後5~15分で起こる即時型反応。
II型:抗原抗体反応から補体・細胞傷害性T細胞が作用する、細胞傷害型反応。
III型:抗原抗体複合体が血管・組織に沈着することにより作動する、免疫複合体型反応。
IV型:抗原を認識するT細胞と抗原間の反応による、48時間をピークとする遅延型反応。
アトピー性皮膚炎は主にI型アレルギー反応に分類されるが、慢性湿疹の発症をこの分類で説明することはできない。
以上、ざっと皮膚の構造と機能について見てきました。
ご意見・ご質問などはお気軽にどうぞ!
アトピー性皮膚炎研究者のミロでした。次回もお楽しみに。
モアザンワーズの曲たち
アマプラで「モアザンワーズ」というドラマを見て、
何話かずつ変わっていくエンディングの音楽にグッときた。
iriさんとかこれまで知らなくて、最近よく聴いてる。
歌い方のバリエーションが幅広くて、たまに「本当に同じひと?」って思ったりする。
おすすめです。ドラマも音楽も。iri「染」のMVの雰囲気がお好きなら是非。
あっという間に春
今回は、いかに春が早く駆け抜けていこうとしているかをご覧に入れようと思います。よろしくお願いします。
まずは先週の水曜日。
季節外れの寒さのために東京は雪が降ったとか騒いでいた頃、天気の気まぐれをものともせずに、桜の開花第一号を発見しました。
上を向いて凛と咲く姿は、なんだか誇らしげです。
そして3日経って、おとついの土曜日。
3分から5分咲きといったところでしょうか、まだまだこれから咲くぞという蕾がたくさん待ち構えています。
そしてさらに2日経った、今日。
あっという間に満開を迎えました。
怒涛のごとく、春が押し寄せてきている感じです。ほんとにうれしい。
あとは花粉が落ち着いてくれたら、パーフェクトです。
そんなこんなしているうちに、次の主役が待ち構えていますよ。
毎朝の、いろんな花の開花チェックがしばらくの日課になりそうです。
2022年3月23/26/28日 横浜市中区
Montell Fish (塩とオリーブオイルで頂きたい音)
旨い野菜や魚や肉は、シンプルに塩とオリーブオイルで食いたい。
それと同じように、
上手い歌唄いの歌は、なるべくシンプルな音の組み合わせで聴きたい。
いわば「音のミニマリスト」的な嗜好が私にはあります。
Samphaの(No One Knows Me) Like The Pianoを初めて聴いた時は衝撃だったし、
The XXのXXはアルバムを通してなんじゃこりゃあああ、だったし、
青葉市子のいきのこり●ぼくらは、もうどんだけ聴いたことやら・・・
今朝、Apple musicがサジェストしてきたのがMontell Fish
めちゃめちゃ格好いい。
たまにはええ仕事するやん!やるなあ!と朝からスマホに向かって褒めちぎってしまいました。
あ、春めいてきたので、こちらもおすすめです。